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岬への想い

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もう何年も前、ぼくはこの「御座岬」へなんどか、来た。
ここは今まで、特別な「場所」だった。
明確な、そこへ来た理由は今もわからないまま、時は過ぎた。
そしてぼくは、海からその岬をながめ、そんなこともあったなと、思えるようになった。

深夜、車を飛ばし、何時間もかけて、引かれるようにここへ来た。
そのとき過去に、陸路から来たことはない。
ただ、あるとき、海からここを眺めた時、理由もわからず
胸の奥のあたりが疼いたことが、ただ考えられるここへ来た、唯一の「わけ」だった。
ぼくは車を降り、灯台のへりで深夜の時間を過ごした。
これから先、ぼくはどう生きてゆくのか、見失っていたことは確かだった。

ときが止まって、じっとそこにたたずみ、太陽が昇る前、空が青くなり始めた時間には
何かから逃げるようにそこを後にした。
そんなことが、数回・・・・。

あのとき、苦しい胸を抱え、そのわけもわからないいまま、じっとうずくまった。
あのとき、ぼくが見つめていたのは、海だったのか、空だったのか・・・・。
あのとき、ぼくが、もう一歩海の方へ踏み出さなかったわけは、なんだったのか・・・。
胸が潰れそうになる、あの感触だけが、今もかすかにぼくの「奥」に残っている。

ぼくはこの夏、何度もこの岬を眺めた。
もちろん、あのときのことがあるから、確かめたい気持ちもあった。
岬の下に、アンカリングし、ときも過ごした。
でも、何もなかった。
美しい岬には違いないけれど、今のぼくにとって、いくつかうちのひとつでしかないことが
よくわかった。
ぼくは、確かにあの「とき」をくぐりぬけて、そしてなんとか、変わったことを
確信した。
そして少し、安心した。
何年ものあいだ、特別だった「岬」は、ただの岬になった。

少し強い風の中、ぼくはヨットをその岬先へ滑らせた。
景色は、そのときと変わっているわけではなく、それでもぼくの心の奥で
何も起こらない。
緑が美しい岬だ・・・・。
シンプルに、そう思った。
白い灯台が緑に映えるな・・・。
そう思った。
風が少し南に振れた。
ぼくの視線は、南の海の果てを見つめた。
ヨットは、軽快にヒールし、波の背を超えてゆく。
気がつくと、あの「岬」は船の後方になっていたが、あえてぼくは振り返らなかった。
その、理由もなかった。

夏が過ぎてゆく。
五カ所湾で過ごした、少し特別な夏が、もう終わろうとしていた・・・・。

by hwindlife | 2010-08-20 23:54 | 好きなこと大切なこと  

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